迷宮百年の睡魔 LABYRINTH IN ARM OF MORPHEUS


2114年4月13日。
ミチルとロイディは、生前クジ・アキラがジャーナリストとして訪れていた、
一夜にして森が消え周囲が海になった小さな島、イル・サン・ジャックへやって来る。
イル・サン・ジャックは長い間一切のマスコミをシャットアウトしていること、
街の地形が非常に入り組んでいることから閉ざされた迷宮の島として知られていた。

そこでミチルは宮殿モン・ロゼの女王メグツシュカ・スホと出会う。
彼女はまるで以前訪れた街ルナティック・シティの女王デボウ・スホ同様の雰囲気をまとっていたが、
それはメグツシュカがデボウ・スホの母親であったためだった。(しかし彼女は胎外で育った)

次に出会ったメグツシュカの息子でもある王シャルル・ドリィへ何故自分をこの島迎え入れたのかとミチルは尋ねる。
シャルル・ドリィは、自分にはイル・サン・ジャックに対する権限は何も無い、
全ては母であり女王のメグツシュカが決める、と言う。ミチルを招き入れたのはメグツシュカの意向であった。

その時、従者メイ・ジェルマンが慌しく部屋を訪れる。
僧侶長のクラウド・ライツが、砂で書かれた絵、曼荼羅の中心で頭部を切断され、亡くなっていた。
また、頭部は現場から発見されなかった。

調査の中で以下の内容が判明する。
・この島は2年前から突如太陽の向きにあわせ一日に一回転するようになった。
・イル・サン・ジャックの中にある街シビの中にはシビの生まれでない者が4人居る。
 宿屋の娘イザベル、街の娘ジャンネ、鍛冶屋ケン、そしてルナティック・シティからやってきたメグツシュカ。
 しかしながらイザベルにもジャンネにも妹が居るという。
・彼女達の妹はこの島で作られた彼女達の人工クローン(cron)であった。
 (人口クローンは障害発生の危険性がある事が判明したため、現代社会での製造はなされていない)
 この島ではクローン製造の技術研究を成すための機関がある。
・ケンは曼荼羅生成のため、部屋に滑車等の取り付けを行うことがあった。(砂絵を踏まないよう宙吊りで描画を行う)

ミチルとロイディは島の周辺をエンジンボートで周回したところ、
それを見つけたクラウド・ライツの弟子ウィルから次のような証言を得る。
・あの夜、クラウド・ライツが自分を曼荼羅の部屋に呼んだ。
・クラウド・ライツは自らの傍らに落ちている仮面と鉛のついた木の棒を海に捨ててくるよう命じた。
・その後、曼荼羅の部屋に戻るとクラウド・ライツはあの状態で死んでいた。

その後、シャルル・ドリィが自分の人形のコレクションをミチルに見せてくれるが、ミチルは薬で眠らされ意識を失ってしまう。
シャルル・ドリィは以前この島を訪れたクジ・アキラを愛しており、アキラそっくりのミチルをアキラと考えていた。
薬の効き目は医師レオン・ドゥヌブが報告したよりも強く、シャルル・ドリィは目を覚まさないアキラに話しかけ続けた。
ミチルはロイディを通じて、シャルル・ドリィの告白を聞いた。

自分は先王の子ではない、メグツシュカが産んだというのも事実ではない。メグツシュカに拾われただけ。
本当の母はその場でメグツシュカではない誰か殺され川に流された。だが、誰も恨んでいない。
ただ、それを知った先王の苦悩があまりにも可哀想であったので自分が殺した。
モン・ロゼがマスコミを一切シャットアウトしたのは、このためだ。

ミチルが目を覚まし、シャルル・ドリィの軟禁と唯一人間の警官であるカイリスの追っ手を逃れわかったことは、
シャルル・ドリィの虚言によりミチルがクラウド・ライツ殺害の犯人と考えられている事、
そして、現在が2115年4月21日であり、あれから1年もミチルは眠り続けていたという事だった。
イル・サン・ジャックの周囲にあった海は、ミチルが囚われ行方不明となっている間、突然なくなり砂漠と化していた。

次の日、イル・サン・ジャック脱出のため、シャルル・ドリィに隠された自身の車をジャンネと探していたミチルは、
工場のような大きな荒れ果てた建物の中で頭部を切断され、亡くなっているシビで最高齢の老人オスカを発見する。
頭部は現場から発見されず、それはクラウド・ライツの事件と同様であった。

そこに現れたオスカの妻ミシェルから次のような証言を得る。
・オスカの声が聞こえ、裏の工場跡(オスカが亡くなった場所)へ行くように言われた。
・行くと、そこにあった鍬と袋に入った瓜を持って、丘を越えた橋が架かっている谷へ捨ててくるよう命じた。
・戻ってくると、オスカはこの状態で死んでいた。

その夜、ルナティック・シティの女王デボウ・スホがミチルの宿部屋を訪れた。
メグツシュカからミチルが行方不明との連絡を聞き駆けつけたが、入れ違いでミチルが目を覚ましていたという。
嬉しい再会に外に出て星を眺めていると、デボウは重大な事実をミチルに告げる。

クジ・アキラはこの島にやって来た時、クロンにとても興味を持っていた。
アキラはクロンを作るため、ミチルに近づいた。
ミチルは、クロンだ。

その時突如、狂気染みたシャルル・ドリィがミチルを槍で襲い、
デボウ・スホはそれを庇い胸部を刺される。持っていた銃を奪われ絶体絶命となったミチルに
なおも襲い掛かるシャルル・ドリィを、立ち上がったデボウ・スホの銃が貫いた。

ミチルのもとにやってきたデボウ・スホはメグツシュカが作ったウォーカロンだった。
そしてまた、シャルル・ドリィもメグツシュカが作ったウォーカロンだった。

メグツシュカは、ミチルに告げる。

シャルル・ドリィはウォーカロンだと自覚しないよう自分がプログラムをした。
彼の過去の話は、全て彼の妄想。川で殺されたのは母ではなく、シャルル・ドリィ自身だった。
以前ウィルスで倒れた母親が望んだためにメグツシュカは彼の細胞からクロンを作った。
本来ウィーカロンはセキュリティ的に人間を殺すことは無い。ミチルは人間と認識されなかっために襲われた。
デボウのウォーカロンとシャルル・ドリィは共にウォーカロンだったために殺すことが出来た。

デボウがミチルに告げた事は本当だ。この島ではクロンを誕生させる実験を行っている。
工事に一ヶ月をかけ人工的となった島が回転しているのは、電磁波望遠鏡として機能しシビの人々の精神的な影響を調べているためだ。

僅か一日、周囲を故意的に海とした時、シビの街の人は眠っていた。
偶然にも街でウィルス性の病気が流行して、多くの死者が出た。その間に病気の者を頭脳分離し、新しい形態に切り換えた。
目覚める時は薬品を使って徐々に覚醒させた。目的は、不治の病人を救うことで、彼らのボディを取り替えるためだった。
海の変化に注意を集中させることで、脳と身体をコントロールした。今回砂漠化もそう、何人かを頭脳分離した。

クラウド・ライツとウィルの頭脳は同一だった。1つの頭脳に、2つの身体を持つことが出来た。
クラウド・ライツはそれに気づいた。そのため、ウィルの身体を使い自らクラウド・ライツの身体を殺した。
それはオスカとミシェルも同様だった。

「人の誇りを持つのです、ミチル。躰なんて小事。大したものではありません。機械で簡単に代用できる」

メグツシュカは自らの生命を保つため、定期的な冷凍保存の眠りについた。

ミチルとロイディ、そしてメグツシュカにミチルに仕えるようにと命じられたウォーカロンのパトリシアは、
こうして、イル・サン・ジャックを後にした。